下院議員バクストンと母親

勝間和代さんや渡部昇一さんが熱心に推薦したことで有名になったのが「自助論」という本です。その中にイギリスのトーマス・ファウエル・バクストンという下院議員のエピソードがでてきます。非常にいい話だと思ったので、ここにご紹介いたします。


バクストンは偉大な政治家として知られています。奴隷解放運動に尽力し、ついに成功に導いたからです。32歳で下院議員になった後、その生涯を奴隷解放の普及にささげています。人道的な政治家というだけではなく、個人としても偉大な人格者で知られ、名言を多く残しています。バクストンは私的にも公的にも尊敬された人だったようです。


そんなバクストンですが、子供のころは手が付けられない悪がきだったようです。スマイルズは以下のように書いています。


幼少のころのバクストンは、不器用でのろまな子供だった。また、めだって我が強く、その気質は最初のうちは横暴なふるまいや、片意地張る態度となって表れた。


バクストンは学校ではちっとも勉強せず、劣等性で怠け者だと思われていた。宿題などは友達に押し付けたまま、自分はあちらこちら飛び回って遊ぶガキ大将だった。


十五歳で学校を卒業し家に戻ったが、そのころの彼は体の大きい育ち盛りの無作法な若者で…野外スポーツ以外には何の興味も示さなかった。




ですが、彼の母親は(父親は既に死去していました)、そんなバクストンをずっと信じていたようです。他人から息子の強情さを指摘された時などは「よけいなお世話だわ。確かのあの子は、いまは我が強いに過ぎないけれど、そのうちにすばらしい人間になるはずよ」と答えたそうです。彼女の教育方針を、スマイルズはこう書いています。


彼女は注意深く息子の意志力を鍛え、ある程度は親への服従を強いたが、半面で枯れにまかせておいても安心できることは思い通りにさせてくれた。強い自我は、それが勝ちある目的に向けられ適切な指導を受ければ、人間として貴重な資質となるはずだ――母親はそう信じ、その考えに従って息子を育てたのである。



成長したバクストンが下院議員として名声を得た後、母親に送った手紙が残っています。


 

「子供のころ、母さんから教えこまれた誠実さや道徳心という美徳を、
いまでも決して忘れません。とくに他人のために何かしてあげようとす
る時、母さん譲りの美徳を強く感じずにはいられないのです」